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増えるLGBTカップル、でも「決めつけ」は相手を傷つける
記憶に新しいパリ五輪。女子ボクシングにおいて、出場資格に関する出来事が注目を集めております。昨年の世界選手権では「失格」とされた2選手に対し、根拠もなくトランスジェンダーだと決めつける誹謗中傷が発生したことも問題視されています。この件について、千葉大学大学院医学研究院の客員准教授であり、育成年代のサッカー女子日本代表のチームドクターを務めてこられた貞升彩さんにお話を伺いました。
(※2024年8月10日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
IBAの性別検査に対する信頼性への疑問
国際ボクシング協会(IBA)は、2選手について「(男性に多く見られるホルモンである)テストステロン値が男性並みだった」とする発言を記者会見で行いました。しかし、IBAは国際オリンピック委員会(IOC)から組織のガバナンスに問題があるとして、統括団体としての承認を取り消されています。さらに、選手の性別に関する調査や検査の手順についても具体的な内容を公表していないのが現状です。
本来であれば、医学だけでなく、法律やメンタルケアを含む外部の専門家もチームに加わり、情報を収集しながら選手に対して診察や医学的検査が必要かどうかを判断するべきです。必要性が認められた場合には、問診などを経て検査に進むというプロセスが求められます。
しかし、IBAの記者会見では、ドクターから性別に関する規定やプロセスの説明がなく、実施されたとされる血液検査の詳細も明らかにされませんでした。このような点から、IBAの対応には信頼性に疑問が残ると言わざるを得ません。
テストステロンとスポーツ競技への影響について
テストステロンとは、アンドロゲンと呼ばれる、男性に多く見られるホルモンの一種です。これは筋力や筋量、骨の長さ、骨格、持久力などの増加に関与し、運動能力にも影響を与えるとされています。ただし、その効果には個人差が存在します。
今回、誹謗中傷を受けた2選手については、高いテストステロン値を示したため、性分化疾患があるのではないかと指摘されましたが、その真偽は不明です。また、性分化疾患にはさまざまな状態が含まれています。さらに、テストステロン値が高い場合でも、その受容体の機能が低い場合、競技にどの程度プラスの影響を与えるのかは現時点では明確には分かっていません。
性に関する情報の公開と医療倫理的な問題
人の性に関するあり方を公に語ることは、医療倫理的に大いに問題があります。それは非常に高度なプライバシー情報であり、競技団体内でも限られた一部の人しか知り得ない情報です。しかし、この詳細を明らかにできないと、さまざまな臆測を招いてしまうというジレンマがあります。その点をIBA(国際ボクシング協会)は利用しており、そのために議論がますます混乱しているように感じられます。
性別に関する誤情報と情報受信者の責任
2選手の参加をめぐる問題については、IOCが中傷を重大視する事態となりました。今回の問題は単なる性別カテゴリーの話にとどまらず、IBA(国際ボクシング協会)のガバナンスの不備も背景にあり、事態の全容を把握することは非常に困難です。
「X(旧ツイッター)」上では、2選手をトランスジェンダーと決めつける投稿が多数見られましたが、こうした情報を安易に拡散することは、偽情報が広まる原因となりかねません。情報を受け取る側には、まず何よりも正確な情報を見極める姿勢が求められます。
女子ボクサーへの中傷問題と真実を求める声
満員のスタンドが歓声を上げた。ボクシング女子66キロ級の決勝戦で、アルジェリアのイマネ・ヘリフ選手が中国の選手を判定で下し、試合後にこう語りました。「私は女性として生まれ、女性として生きてきました」。
しかし、信頼性の低い性に関する検査情報が元となり、選手への誹謗中傷が広がりました。ヘリフ選手と女子57キロ級の林郁ティン(リンユーティン)選手(台湾)は、かつて国際ボクシング協会(IBA)から「失格」とされたことがあります。IBAは検査の説明を二転三転させ、当初は男性に多いホルモンの一種であるテストステロン値の測定について話し、その後「染色体検査の結果」と説明を変更しましたが、検査の詳細な説明は避けられました。
1日、ヘリフ選手のパンチを受けたイタリア選手が棄権し、試合後に涙を流して握手を拒否しました。欧米の多くのメディアがイタリア選手に同情的な報道を行うと、2選手を根拠なくトランスジェンダーと決めつける情報が拡散され、X(旧ツイッター)などでの中傷が加速しました。不確かな情報に基づき、染色体に関するプライバシーを公然と議論する投稿も多く見られました。その後、イタリア選手は自身の行動について謝罪しました。
記者から「今の願いは」と問われたヘリフ選手は、前を見据えながら慎重に答えました。「いじめをやめてほしい。そして、今後同じような攻撃が起きないことを願っています」。
選手への中傷に対する専門家の見解と情報拡散のリスク
選手への非難や中傷に関して、トランスジェンダーである仲岡しゅん弁護士(大阪弁護士会)は、「『女性らしく』見えない女性をトランスジェンダーと決めつけて差別を助長している状況があります。不確かな情報に基づいて断定したり、本人が公表していない身体的特徴を興味本位で詮索する行為は、非常に暴力的です」と厳しく批判しています。
また、国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一准教授(計量経済学)は、「情報をシェアしたいと感じた時には、その情報の出どころを確認し、信頼性のあるメディアの報道をしっかりと確かめてほしい」と指摘しています。